永遠の0★★〜ミステリ構造に欠陥があるから戦争肯定と捉えられる〜


 大ヒット中の話題作。ドラマシリーズでも漫画原作でもない実写邦画がここまでのセールスを記録したことは、現邦画界の大きな指針となるかも知れない。原作小説もまた、国家首脳のお墨付きまで授かったヒット小説だ。そんな華々しい栄光の一方で、一部では「戦争肯定」と批判される本作。個人的には映画構成に欠陥があるから戦争肯定にも見えてしまうかたちだと感じた。

 「祖父は臆病者だったのか」「何故祖父はゼロ戦に乗ったのか?」この2つが謎となるミステリだけれど…。

【ネタバレ感想】

1.ミステリ・アンサーの展開構造
 謎を順序通り追うとこんな感じ。
岡田准一は合理的かつ天才、人命最優先

戦火のなか教え子すら命を落としていく惨状を見てきた為か、精神を病んだ

教え子の染谷将太に妻子の写真を見せたら「綺麗な奥さんですね〜羨ましいです」と言われる

突然のゼロ戦搭乗申請

いざゼロ戦に乗ろうとしたら壊れていた

染谷将太へのメモを残し、機体を交代してもらう

見事機体が壊れていた為、染谷だけ特攻せず助かる

戦争が終わる

染谷の井上真央へ献身、無事結ばれる

井上「あの人は死んでも帰ってくると言った…!こういうことだったのね…!」

2.ゼロ戦の乗った理由≠感動の奇跡
 ・・・いや、機体が壊れたのって偶然だよね?岡田准一が搭乗する機体が壊れていた」って偶然が無ければこのトリックは成立しない。機体の安全性を確認する前に岡田は特攻を決めた訳だから、そこまで「計画通り」ってわけではない。本当に奇跡的な偶然。「機体破損」という奇跡的なラッキーチャンスが無ければ妻子を残してゼロ戦特攻で戦死して終わっていた話。
 作中の要である「岡田准一ゼロ戦特攻を決断した理由」の答えは「精神消耗」辺りが妥当では?約束うんぬん言ってるけど、それを破るかたちで自ら特攻に志願したのは他ならぬ岡田である。彼が己の約束を反故してまでゼロ戦特攻を申し出た理由は「WW2の悲惨さ」「日本軍の自爆的軍策」による精神疲労。合理的かつ人格者である岡田准一をそこまで疲弊させた戦争の罪は重い。なのに、そこを触れず「岡田准一尊い」という要素のみで感涙モードに入るから混乱が生まれる。
 染谷将太の顛末にしても偶然が大きい。妻の写真を見せられた染谷がいくら「美人ですよね〜」と言おうと、それだけで「染谷が井上に惚れる」「井上も染谷を愛す」って結末は読めないでしょう。岡田がそこまで考えていたかはわからないけれど、再婚もかなり不確定な奇跡的事象だ。井上の「あの人が死んでも帰るって言葉は貴方のこと(=染谷が新たな夫になるということ)」って台詞は現実逃避みたいなもん。幸福になる為、絶望から逃れる為の現実逃避は決して悪くないと思う。それ自体はいい。けど映画は【全て岡田の計算通り】って方向で泣かせようとするから違和感。

3.ミステリ構造の欠陥
 ・岡田准一染谷将太の命を救った
 ・染谷将太井上真央が恋に落ちた

 この2つって偶然の賜物なんですよ。こんな偶然まで「全ては岡田准一の計算通り!岡田凄い!尊い!」演出に費やしているから物凄い違和感。その一方で…

 ・岡田准一が約束を反故にしゼロ戦特攻に志願したこと

 この事実にはノータッチ。別に「約束を破った岡田は追求されるべき!」と言いたいのではない。あの人格者である岡田すら戦争下のストレスにより志願してしまった悲劇及びWW2の罪についてほぼ触れていない点が問題。人道的な問題と言うよりシナリオ欠陥。あんなに「生きて帰ること」に拘っていた岡田准一が、死が確定してる作戦に志願した理由が実は語られていない。代わりに語られるのは「奇跡の感動」。 「"奇跡"まで"個人の作戦能力"として褒め称えている」そばで「その個人の"事実"については触れない」。このアンバランスさが反戦なのか戦争肯定なのかわからない疑念に繋がっているのではないか。

4.三浦春馬の叫びは作品の主題か?
 三浦春馬の「ゼロ戦は洗脳テロ集団じゃない!何故ならゼロ戦の標的は敵軍だから!」という演説。その直後に三浦は「いい目をしてきたな」と賞賛される。この流れだと「(国家間で取り決められた)敵国の軍隊が標的だからゼロ戦は洗脳テロではない」という意見が映画のメッセージになってしまう。ここも批判の元凶の1つとなっている。夏八木勲の説明台詞にも戸惑った。「妻子の人生が託したあとは立派に特攻した岡田は臆病者じゃない…!」って提言。特攻隊肯定にも聞こえてしまう。
 三浦春馬に関してはラストもよくわからない。折角、導入部で「金にならない弁護士活動をやってる祖父を小馬鹿にするシーン」があったのだから、最後は「現代で困っている人々を助ける弁護士を目指す」変化を見せたらクリーンだった。彼が平和な現代を見渡す場面のBGMが不穏なので「平和ボケに憤っている…?」と不安になってしまった。恐らくは「祖父たちが創ってくれた平和な現代社会を見て打ち震える描写」だけれど。

(TOHOシネマズ六本木ヒルズにて鑑賞)