アメリカン・ハッスル★★★〜「囚人のジレンマ」の果ての囚人〜


協力して犯罪をした二人が、警察に捕まりました
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しかし証拠がつかめないので、自白を引き出すために警官は捕まえた二人にこう言いました
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「もし相方の罪を証言すれば相方は懲役5年の罪にするが、お前は懲役1年にしてやる。逆も同じだ。」
「だが、二人とも証言したらお前達二人とも懲役3年だ。」
「もし、二人とも黙秘したら二人とも懲役2年だ。わかったな?」
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捕まった二人は別々に収容されているため、相談が出来ません。
この時、二人の犯人はどのような行動にでるのでしょう?

 これは『アメリカン・ハッスル』の前半シーンを文字起こししたわけではなく、囚人のジレンマ法則の引用だ。"囚人のジレンマとは、このように各々は自分にとって最適な答えを選んだのに、全体を見たとき明らかに最適でない結果が出てしまうというものである。" 
 「虚偽」で始まる本作には、最初から最後までこの囚人のジレンマが纏わりつく。自分の幸せは他人にとっての幸せではないのだ。例えその他人の幸福を願っていようとも。犯罪者である登場人物たちの欲望と嘘が転がり続け、最後に囚人となるのは誰か?

【ネタバレ感想】
 本作で面白い要素は「女」だ。クリスチャン・ベールが主役を勤めながらも、愛人エイミー・アダムスと正妻ジェニファー・ローレンスが要所で運命を握っている。ここで面白いのはクリスチャン・ベールブラッドリー・クーパーの女への接し方。ベールは妻子の存在を隠しながら不倫しようと、女2人に誠実に接する面を持つ。反してクーパーはエイミーを騙し続ける。騙し合いゲームの勝者はベール。「ヤクザものは女を大切にしなければいけない」『ゴッドファーザー』サーガ理論を思い出す結末。
 そして「囚人のジレンマ」ゲームで最後に囚人となったのはジェレミー・レナー。作中数少ない善人にも関わらず、ベールが友情を反故にした結果、詐欺の被害者となってしまった。まさかのgood manだけが社会的制裁を喰らう不条理な結末。「女への接し方」にしても、レナーだけは一貫して伴侶を愛していたのに。この悲劇こそベールへの罰だ。「騙すのは私腹を肥やす悪人のみ」という信念を免罪符にしていたベールは、大切な友人を囚人にしてしまったことを気に病み、犯罪者を辞める。惚れた腫れたは騙し合い。時には嘘が上手く転ぶし、時に真実が悲劇を運ぶ。だけど、友情においての"詐欺"は許されないものなんでしょう。

(TOHOシネマズ六本木にて鑑賞)

見た映画14年1月-2月(黒執事、EVAエヴァ、東京ゴッドファーザーズ、天才マックスの世界 他)

 見た映画メモ…。

黒執事★★★

 見る前からネタ映画枠ですが…意外と楽しめた無国籍活劇。驚いたのはアクション演出で、なんと『キック・アス』、『マトリックス』、『ダークナイト』のオマージュが散見。

EVA エヴァ★★★

 繊細な世界観で魅せるSF。このシリアスな中に恋愛修羅場を混在させる腕は流石スペイン。【ネタバレ感想】「ロボットの殺人を禁ずるロボット三原則」と「ロボットに感情を与える施策」は共存できるのか。この作品の答えはほぼ否であろう。この世界は、人による悪意無き殺人すらもまだ防げていないのだから。

東京ゴッドファーザーズ★★★

 クリスマスの聖夜。3人のホームレスが1人の赤子を拾う。そんなプレゼントを貰った3人が、今度は沢山の人々へのサンタクロースに変身してゆく性善説劇。

天才マックスの世界★★★:ウェス・アンダーソンの説明しない美学。離婚を示す流れが巧い。
脳男★★
リトル・マエストラ★★

(『黒執事』のみTOHOシネマズ六本木にて鑑賞、他すべてWOWOW

マリー・アントワネットに別れをつげて★★★☆〜結末はこれでいい〜


 ドブネズミみたいになりたくない。写真には映れない哀しさがあるから。…とも言いたげに、ヒロインの下には鼠の死体が出現する。こういうシリアス格下劇で幕開けがそんなだと、嫌でも悲劇が浮かぶ。まぁ悲劇だったのは物語ではなく映画構成の方で、終わり方に不満が挙がっていますが…。自分はこのラストを支持したい。
【ネタバレ感想】
 本作の原題は"Les adieux 〓 la reine"。英題は"Farewell, My Queen"。どちらも「女王との別れ」という意味。題字通り、主人公がマリー・アントワネットと離れ離れになった瞬間に映画は終わってしまう。恋愛映画だから恋が終わった瞬間に幕が閉じるのだ。孤児だった主人公は、王妃の存在によって「生きる意味」を授かった。悲惨なかたちで彼女の恋は破れ、そのまま彼女の人生もまた「無」に戻る。女性同士の恋愛映画でこんなに渋いものは初めて見たかも。王妃の最後のキスにしても、ポリニャック夫人に向けられたものなんだろう。主人公の空疎な恋心。

(ネタバレ感想)

アウトロー★★★★〜古き良き英雄の欠点〜


 名探偵トム・クルーズ。「一昔前の洋画劇場っぽい」という声が散見されるように、往年の西部劇と60-70's米映画をベースとした造りとなっている。今年の賞戦線を騒がした『アメリカン・ハッスル』も70年代ハリウッドのオマージュが濃い作品だし、ブームなのかも?


 例えば上記のシーンはシドニー・ポワチエ『手錠のままの脱獄』を思い出す。銃のスコープで被害者たちが映される入りは『ダーティハリー』?最近もっぱら最先端視覚効果が用いられがちなカー・アクションシーンも、本作では無骨で、なんとBGMは無し。沈黙のままジリジリと緊迫ドライブが続く渋さ。しかしながらアクションやミステリ展開はド王道なので、正に手に汗握って楽しめる活劇となっている。俳優陣も70年代に活躍したロヴァート・デュヴァルが出てきたりと、正に洋画劇場全盛期ファン感涙の出来栄え。
 しかしながら、今日に「西部劇」を行うにおいて、気になったことが一つ…

【ネタバレ感想】
 「金も女も要求せずただ悪を撃って去ってゆくヒーロー」って、現代舞台だと違和感が…。トム・クルーズのスーパースター性を持っても「本当かいな」と突っ込んでしまった。なんのインセンティブも要求しないアメリカン・ヒーローとしては(ありがちな)葛藤も見られない。2010年代の英雄としては厳しいか?

WOWOWにて鑑賞)

永遠の0★★〜ミステリ構造に欠陥があるから戦争肯定と捉えられる〜


 大ヒット中の話題作。ドラマシリーズでも漫画原作でもない実写邦画がここまでのセールスを記録したことは、現邦画界の大きな指針となるかも知れない。原作小説もまた、国家首脳のお墨付きまで授かったヒット小説だ。そんな華々しい栄光の一方で、一部では「戦争肯定」と批判される本作。個人的には映画構成に欠陥があるから戦争肯定にも見えてしまうかたちだと感じた。

 「祖父は臆病者だったのか」「何故祖父はゼロ戦に乗ったのか?」この2つが謎となるミステリだけれど…。

【ネタバレ感想】

1.ミステリ・アンサーの展開構造
 謎を順序通り追うとこんな感じ。
岡田准一は合理的かつ天才、人命最優先

戦火のなか教え子すら命を落としていく惨状を見てきた為か、精神を病んだ

教え子の染谷将太に妻子の写真を見せたら「綺麗な奥さんですね〜羨ましいです」と言われる

突然のゼロ戦搭乗申請

いざゼロ戦に乗ろうとしたら壊れていた

染谷将太へのメモを残し、機体を交代してもらう

見事機体が壊れていた為、染谷だけ特攻せず助かる

戦争が終わる

染谷の井上真央へ献身、無事結ばれる

井上「あの人は死んでも帰ってくると言った…!こういうことだったのね…!」

2.ゼロ戦の乗った理由≠感動の奇跡
 ・・・いや、機体が壊れたのって偶然だよね?岡田准一が搭乗する機体が壊れていた」って偶然が無ければこのトリックは成立しない。機体の安全性を確認する前に岡田は特攻を決めた訳だから、そこまで「計画通り」ってわけではない。本当に奇跡的な偶然。「機体破損」という奇跡的なラッキーチャンスが無ければ妻子を残してゼロ戦特攻で戦死して終わっていた話。
 作中の要である「岡田准一ゼロ戦特攻を決断した理由」の答えは「精神消耗」辺りが妥当では?約束うんぬん言ってるけど、それを破るかたちで自ら特攻に志願したのは他ならぬ岡田である。彼が己の約束を反故してまでゼロ戦特攻を申し出た理由は「WW2の悲惨さ」「日本軍の自爆的軍策」による精神疲労。合理的かつ人格者である岡田准一をそこまで疲弊させた戦争の罪は重い。なのに、そこを触れず「岡田准一尊い」という要素のみで感涙モードに入るから混乱が生まれる。
 染谷将太の顛末にしても偶然が大きい。妻の写真を見せられた染谷がいくら「美人ですよね〜」と言おうと、それだけで「染谷が井上に惚れる」「井上も染谷を愛す」って結末は読めないでしょう。岡田がそこまで考えていたかはわからないけれど、再婚もかなり不確定な奇跡的事象だ。井上の「あの人が死んでも帰るって言葉は貴方のこと(=染谷が新たな夫になるということ)」って台詞は現実逃避みたいなもん。幸福になる為、絶望から逃れる為の現実逃避は決して悪くないと思う。それ自体はいい。けど映画は【全て岡田の計算通り】って方向で泣かせようとするから違和感。

3.ミステリ構造の欠陥
 ・岡田准一染谷将太の命を救った
 ・染谷将太井上真央が恋に落ちた

 この2つって偶然の賜物なんですよ。こんな偶然まで「全ては岡田准一の計算通り!岡田凄い!尊い!」演出に費やしているから物凄い違和感。その一方で…

 ・岡田准一が約束を反故にしゼロ戦特攻に志願したこと

 この事実にはノータッチ。別に「約束を破った岡田は追求されるべき!」と言いたいのではない。あの人格者である岡田すら戦争下のストレスにより志願してしまった悲劇及びWW2の罪についてほぼ触れていない点が問題。人道的な問題と言うよりシナリオ欠陥。あんなに「生きて帰ること」に拘っていた岡田准一が、死が確定してる作戦に志願した理由が実は語られていない。代わりに語られるのは「奇跡の感動」。 「"奇跡"まで"個人の作戦能力"として褒め称えている」そばで「その個人の"事実"については触れない」。このアンバランスさが反戦なのか戦争肯定なのかわからない疑念に繋がっているのではないか。

4.三浦春馬の叫びは作品の主題か?
 三浦春馬の「ゼロ戦は洗脳テロ集団じゃない!何故ならゼロ戦の標的は敵軍だから!」という演説。その直後に三浦は「いい目をしてきたな」と賞賛される。この流れだと「(国家間で取り決められた)敵国の軍隊が標的だからゼロ戦は洗脳テロではない」という意見が映画のメッセージになってしまう。ここも批判の元凶の1つとなっている。夏八木勲の説明台詞にも戸惑った。「妻子の人生が託したあとは立派に特攻した岡田は臆病者じゃない…!」って提言。特攻隊肯定にも聞こえてしまう。
 三浦春馬に関してはラストもよくわからない。折角、導入部で「金にならない弁護士活動をやってる祖父を小馬鹿にするシーン」があったのだから、最後は「現代で困っている人々を助ける弁護士を目指す」変化を見せたらクリーンだった。彼が平和な現代を見渡す場面のBGMが不穏なので「平和ボケに憤っている…?」と不安になってしまった。恐らくは「祖父たちが創ってくれた平和な現代社会を見て打ち震える描写」だけれど。

(TOHOシネマズ六本木ヒルズにて鑑賞)

ハンナ・アーレント★★★★〜右傾化する日本にフィットする命題〜


 『ハンナ・アーレント』は日本で異例のヒットを記録している。哲学者の提唱に関する独映画が何故ヒットしたのか。いざ鑑賞するとなるほど納得で、国際的に右傾化と報じられる現日本に巧くフィットする映画だった

 バッサリ言うと哲学者が発表したレポートが炎上する話。主人公ハンナ・アーレントナチスドイツに収容された経験を持つユダヤアメリカ人。ナチスドイツ幹部を勤めたアドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、以下のレポートを米誌で発表した。

アーレントの発表したレポート概要
1.【悪の凡庸さ】上からの命令に忠実に従うアイヒマンのような小役人が、思考を放棄し、官僚組織の歯車になってしまうことで、ホロコーストのような巨悪に加担してしまうということ。悪は狂信者や変質者によって生まれるものではなく、ごく普通に生きていると思い込んでいる凡庸な一般人によって引き起こされてしまう事態
2.WW2下にナチス政権に協力したダヤ人自治組織(の指導者)もまた悪の凡庸さの一例である

 当然の如く大炎上。「ナチスの大悪党であるアイヒマンは凡人である」ってだけでも炎上。「悪の凡庸さ」の一例として記した「ナチスに協力したユダヤ人たち」が大々炎上。アーレントは脅迫文の嵐には遭うわ、大学からは解雇決定を下されるわ、ユダヤ系学者たちからは村八分を喰らうわ、家族には嘆かれるわ、インテリ友人からは絶交されるわ…。映画の大半はこういった「炎上し世間&周囲から攻撃されるアーレント」描写に割かれる。この構成に“巧さ”が在る。「反射的にアーレントを糾弾する人々」を描くことで「悪の凡庸さ」そのものを表現したのだ。社会的には一流の学者たちですら、冷静さを失い、輪になってアーレントを「悪」と決めつけて攻撃する。アーレントの提唱はどのようなものか?支持出来ないならどの面にどのような欠陥があるのか?…このような学術的視点でアーレントのレポートと向き合う学者たちは限りなく少ない。そのような、時に国の命運を担う社会的一流学者たちでも「彼女は悪だから村八分にして良い」という加虐的団結へ傾向する。これこそ「思考停止」。思考停止し他者を加虐する「悪の凡庸さ」の見事な体現だ。


 そしてニッポン。今日の日本は、政治家の靖国神社参拝や慰安婦関連発言により、海外メディアに「右傾化」を指摘されている。安部首相の靖国参拝は中韓米政府だけでなくEUまでも批判を発表した。それに反し、日本国内では「反・中韓」意識が高まっている。こういった世の中の空気に不安を覚える日本人は少なくはないだろう。…「欧米中韓に批判されても反中韓を貫いていて良いのか」「このまま中韓と闘って良いのか」「いつかは戦争になってしまうのではないか」…こんな微かな疑問を抱える人も一定数居るはず。そういった日本人にとって、「思考停止が生む集団的悪」をわかりやすく、エキサイティングに紹介する『ハンナ・アーレント』は有効な映画だ。昨今の社会動向に対する不安に不安を覚える人に対し「流されず個人として考える為の武器」を授けてくれるのだから。
 愛国心および自国への帰属意識は悪いことではない。『ハンナ・アーレント』でも、己の民族に帰属意識を持つ人々が悪人ではないことが描かれていた。だけれど、冷静な思考を停止させ、他者を攻撃するような帰属意識は大きな危険性を孕んでいる。現に「アメリカの正義」を掲げたイラク戦争アメリカ市民にも大きな傷跡を遺した。考えることをやめてはいけない。「暖かそうに見える帰属意識」にのめり込んではいけない。そんな叫びを『ハンナ・アーレント』は持っている。一定の日本人に求められる映画だ。 最後は宮尾節子さんの名詞で。

(via明日 戦争がはじまる - Togetter )

参考資料
掲載グラフ引用元 「第9回日中共同世論調査」結果 | 言論外交の挑戦 | 特定非営利活動法人 言論NPO
TIME誌表紙引用元 http://www.time.co.jp/time/backnumber/20121217.html
「アベノミクスとナショナリズム」の相関関係(木村正人) - 個人 - Yahoo!ニュース
英BBC「日本は右に大きく舵を切った」|日テレNEWS24

角川シネマ有楽町にて鑑賞)

第56回グラミー賞授賞式賞見た。ベストまとめ。


 今年のグラミーはBEATLESリスペクト。受賞はダフト・パンク、ロード、マックルモア、Jay-Z無双。「アメリカっぽいパワー系アゲ」は『アメリカン・ミュージック・アワード』に任せシックな装いでした。

1.スティーヴィー・ワンダーダフト・パンクファレル・ウィリアムスナイル・ロジャース

 正に"レコード"賞。僕らの音楽、僕らの大好きなあの時代リ・ボーン。

2.ロビン・シック×シカゴ

 下ネタ男(芸風)ロビン・シック、シカゴと共にシックに決める。

3.ケンドリック・ラマー×イマジン・ドラゴンズ

 エモーショナルなリベラル・マックルモア様も凄いがアゲ面ではケンドリック!久々の中二系でヒットなイマジン・ドラゴンズとのコラボも最高。

4.ピンク×ネイト・ルイス

 アゲ要素ではぶっちぎりのP!NK、宙吊り握手会。

5.メタリカ×ランラン

 メタリカサウンドにも軽やかに対応するランラン!『のだめカンタービレ』ではのだめのピアノに使われていた天才。

 バラードではキャロル・キング×サラバレリスが良かった。
 最後はアワード戦線でも大活躍だったマックルモア&ライアン・ルイス『セイムラブ』。マドンナとコラボして感動の合同結婚式パフォーマンスを行い、愛の讃歌を歌い上げた。この曲が強い理由はまず「同性婚の支持」。それを、カウンターカルチャーでありながらゲイが差別されている(空気のある)「ヒップホップ」で行った。個人的にはMV映像が素晴らしいと思う。

 参照→[およげ!対訳くん: Same Love マクルモア (Macklemore ft. Mary Lambert)

WOWOWにて鑑賞)