ペーパーボーイ 真夏の引力★★★★★〜人生の大半を決定づける青春〜


 真夏の淫夢じゃんか!ってくらい爆笑連続の前半!!まずニコール・キッドマンが凄い。顔芸エアーセックスに放尿プレイ!!!そして突然のマコノヒー'sヒップ!!!主演のザック・エフロンはブリーフ一丁で家政婦にベタベタするし、総てがノン・ストップ!カンヌ映画祭で低評を喰らい、アメリカ某誌では「2013年最も不快な映画」にセレクトされただけある衝撃!!


 秀逸なのは、大喜利大会のごとくネタ放射しときながら「青春譚」として着地する構成。何故だがあの感動作『ヘルプ』のような後味…。。「突然の衝撃展開」にしても、段々と笑えない事態に。マシュー・マコノヒーの出オチネタなんて物凄く笑えるんだけど、そのあと「あ、笑っちゃいけないやつだった」と観客をヒヤリとさせる。その"段差"が良い。
 キャラクタは皆【社会的倫理又は差別によって排斥される存在】となっていて、特にニコール・キッドマンなんかいつの世も軽蔑される造形だけど、「こういう人いるよね」と強く思わせる。ここもまた、観客にイラつかせた後「リアリティある…」と思わせる"段差"。それでもって、映画は善悪は語らず、ただただ不快(しかしながら真実)を繰り出し続け、最後は一夏の体験譚に着地する。

【ネタバレ感想】
 誰が如何様に【社会的倫理又は差別によって排斥される存在】なのか。わかり易いのは黒人のヤードリー。出身を偽らないと職に就けない悲劇。同じアフリカ系の家政婦・アニタも雇用主から差別的な扱いを受ける。アフリカ系への差別(そしてその不快性)は冒頭から語られる。
主人公にしても、執拗にブリーフが映されるのは「幼児性」の表現か。一般的に思春期とは「12歳からの数年」と言われているけど、彼は今も尚思春期中っぽい。初恋の相手に対し「バービー人形と母親と恋人を求めた」ように、常に母性(又は母からの肯定)を求め彷徨っている。もしかしたら育ててくれた家政婦に母親と恋人を求めていたのかも知れない。模擬的母親が父親に奴隷として扱われる悲劇。
主人公の兄はゲイであることを隠し自信過不足に陥っている。過激な被虐趣向も自己否定発か。セクシャリティが白日の下に晒された上にスクープを盗まれ廃人になった彼は、ボートで何を思っていたのだろうか。「兄貴、海賊みたいだ」と微笑み合うあの時間は、最早死ぬことをわかっていたかのような安堵と静寂に溢れている。そして首を掻き切られた瞬間の目!大切な弟の為に死ねて良かったと言っているよう。名演。
 純粋なプールは水を抜かれ、海にはクラゲが萬栄し、遂に到達した沼はワニが潜む恐ろしい暗闇。思春期によって生涯「愛する人」を喪ってしまった主人公。「人生の殆ど」を決定づけてしまう「心的外傷」を、人生の序盤である「思春期」に与えられる、なんともダークネスな青春映画。

(DVDにて鑑賞)

2013年10月-12月期ドラマまとめ。女キムタク、逆キムタク、キムタク

 2013秋ドラマの話題と言えば「キムタクの凋落」。個人的には「ジャニーズの不振」です。人気俳優が高視聴率をマークする中、ジャニーズグループの各エースが主演した作品はこぞって視聴率が芳しくなかった。SMAP木村拓哉安堂ロイド』12.78%/関ジャニ∞錦戸亮『陰陽屋へようこそ』平均8.76%/KAT-TUN亀梨和也東京バンドワゴン』平均7.12%/TOKIO長瀬智也クロコーチ』9.61%草磲剛の『独身貴族』は11.39%で普通。…とは言っても、映画&ドラマで数字を稼ぐ嵐メンバーは入っていない。 以下、視聴率順に雑多感想。

1.Doctor-X★★★★(テレビ朝日平均22.98%)

 米倉涼子って女キムタクだよね。松本清張でヒットした時は「悪女キャラ」だったけども、今は「女キムタク役」がお得意。彼女の2010年以降の主演連ドラは『35歳の高校生』『HUNTER』『ナサケの女』『ドクターX』。実はこの4つ全て同じような役。派手好きオシャレで曲がったことが嫌いなヤリ手1匹狼(独身)…これが米倉の「いつものキャラ」なのだ。視聴率(女)王である木村と米倉は、2人とも「技巧が立派ってわけではないもののオーラとキャラで作品を成立させるスター型役者」。悪い言い方すれば「いつも同じような役」。但し、似てると言っても、職場での人間関係と恋愛面は真逆。キムタクは上司にも部下にも好かれ恋愛にも恵まれるが、米倉涼子は至って一匹狼。職場でのストレスが多いであろう不景気の今は、後者の方が痛快。
 ドラマ自体は前西部劇のケレン味は薄まった代わりに濃いキャラ満載・エンタテインメントに変化。純粋に楽しめた。

2.『リーガルハイ』★★★★(フジ平均18.38%)

 飛ぶ鳥を落とす勢いの堺雅人。2013年度ドラマ視聴率TOP10に2作ランクインの現・視聴率王。元祖・視聴率王の木村拓哉との勝負も征した。堺雅人木村拓哉とは真逆の俳優、いわば「逆キムタク」的。別段美形ってわけではないし、トップ男優の中では地味めな風貌。だけれど抜群の表現力でどんな役もこなせるカメレオン技巧派だ。「大根だけどオーラがある」木村拓哉とは対極に位置する視聴率キング。
 そして『リーガルハイ』。前半は面白かったんだけども、後半のまとまりが今一歩。今回も社会問題からの引用満載。まず小雪木嶋佳苗と和歌山毒物カレー事件のオマージュっぽい。事件の顛末は昼ドラっぽくて少し残念。前クールのキモが【権力(原発)と市民】だったように、今回も一番のメッセージは最終回前に隠されている気がする。それはVS松平健回での【集団意識】。「日本の裁判は世間に嫌われたら負ける魔女裁判。日本は先進国ではなく民衆が人を吊るし上げる中世!!」と言い切るのがROCKだ。インターネットとマスメディアが炎上を過激化させる(そして主人公サイドがそれを利用する)時事ネタもバッチシ。但し、この回にしても、劇としての盛り上がりには欠けた。

3.『安堂ロイド』★★(TBS平均12.78%)

 えーと、「クソドラマとして笑える」ことすら出来ない「なにがやりたいの?」ドラマなんですが…。結局は兄妹ゲンカなのでグローバル要素は邪魔だったんじゃないか、とか、『タームネーター』参考にするなら「棒立ちヒロイン」はやめてほしい、とか色々、アレだよ!アレ!!!
 最も気になるのはキャスティング。米倉涼子堺雅人を語るにおいて「キムタク像」を軸にしたけど、言ってなかったことが1つ。「若くなく芝居も上手くないスター役者ドラマは、周囲の役者が巧くないと難しい」。米倉涼子の『ドクターX』は西田敏行三田佳子とレギュラーが大御所だった。『安堂ロイド』は「大御所固め」の反対で、桐谷美玲・本田翼・大島優子っていう「最近推されてるタレントっぽい人ら」が3人も重要ポストに就いちゃってる。誰が悪いってわけじゃないけど、「女優でもないタレント/モデル枠」は1人で良かったでしょ。ゴチャゴチャしすぎ。


 クロコーチ』:面白いんだけど、ラストの長瀬の長台詞が残念だった。長瀬はイケメンな上に迫もあるけど、技巧自体が微妙なので練りこまれた脚本であればあるほど(下手さが)悪目立ちする。
 『ミス・パイロット』:何故か斎藤工がキムタクごっこしていた。構成が大分ガチャガチャだけども、日本連ドラとしては男優陣が地味すぎ。

ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE★★★☆〜一方の完璧な敗北〜


 2013年度日本の興行収入はTOP3全てアニメ。10位以内にランクインした日本製アニメは5つ/実写邦画は2つ*1。今日の日本映画界の雄はアニメと言っていいだろう。毎年セールスランクに登場する『コナン』は東宝が誇る大ヒットシリーズ。国民的アニメのタッグとなる本作も公開一ヶ月で36億円のヒットを飛ばしている*2。我が国の映画産業を語るにおいてはずせない大作だ。

 ってことで中々迫力ある大作に仕上がっている(一映画的評価は置いといて…)。アクション/ミステリ/サスペンス/コメディ/エロティック/濃いキャラ盛ん。作画もかなりのもの。この企画の問題はコナン側とルパン側が絵柄からして合っていないことなんだけど、両者の作風の違いもうまくカバーしている。同じ土俵に上がることで浮き彫りになる「おかしさ」をコメディで払拭する荒業。例えば小学生がメガネを光らせて「江戸川コナン、探偵さ」とキメるシーンなんて『ルパン』のキャラからするとちゃんちゃら可笑しい。だからコナンは次元に(子どもの姿でカッコつけたりする点を)からかわれる。『ルパン』にしても、『コナン』の世界観からすると銭形は狂気的な暴走刑事だから、目暮刑事や佐藤刑事にドン引きされて笑えるキャラとして処理。2作品に配慮した絶妙なバランス。
 まぁ、アクションだーコメディだー色々詰めすぎて、肝心の種明かしが超ハイスピード、結局誰が何したかったのかわからない、って構成でしたが…。ついでにテレビSPを見ないとトリック自体もよくわからないぞ!
 ↓一応「ルパンvsコナン」と題されてるので、どちらが勝ったか考えてみました

【ネタバレ感想】
 この勝負、コナンの敗け? 犯人(の一人)だったルチアーノは飛行機の窓から投げ出されてしまう。彼を助けようとしたコナンはルパンに止められた。基本的にコナンはどんな悪党でも"死なせない"スーパーヒーロー。ルチアーノは『名探偵コナン』では助けられたであろうキャラだが、『ルパン三世』では殺されるべき小物。主人公としての信条を護れなかったコナンが黒星。

(TOHOシネマズ渋谷にて鑑賞)

キャプテン・フィリップス★★★★〜なぜ漁師は海賊になったのか〜


 ソマリアの漁師が海賊になった原因はアメリカである。…と言うのは誇張しすぎの"嘘"となるけど、米国が加担していたことは事実だ。以下は一説、おまけにWikipediaだけども「こういう話もある」程度に認識した上で『キャプテン・フィリップス』を見ると違った面白さがある。

ソマリア沖の海賊 - Wikipedia
 魚を食べる習慣の少ないソマリア国内ではなく海外への輸出へと回し、外貨獲得の手段としていたが、1991年のバーレ政権崩壊後は内戦と機能しない暫定政府(無政府状態)が要因で魚の輸出が困難となった。さらに、管理のされていないソマリア近海に外国船、特に欧州の船団が侵入して魚の乱獲を行ったため、漁民の生活は一層困窮した。
 1990年代に軍部と欧米の企業が結んだ「沿岸に産業廃棄物の投棄を認める」という内容の条約に基づき、産廃が投棄されるようになる。そのなかに他では処理が難しい放射性物質が多量に含まれていたため、漁師を中心とする地域住民数万人が発病。地域住民の生活を支えていた漁業もできなくなった。この結果、困窮した漁民がやむなく自ら武装して漁場を防衛するようになり、一部が海賊に走ってそれが拡大したものとする分析がある。

 本作冒頭で、トム・ハンクスが息子の就職について語る。「今は何でも早くで大変な時代だ」。この台詞、映画全体を表している。世界一の経済大国・アメリカでも大変なんだから、ソマリアの若者はもっと大変ってこと。奇しくもトム・ハンクスの息子と、トム・ハンクスを襲うソマリア海賊リーダーは同年代。元々漁師だった青年が海賊になった原因は、アメリカ等の先進主要国から搾取及び皺寄せを食らったことが大きい。
 ついでにアメリカは、ソマリアの送金企業バラカートを「アルカイダに加担している」とみなし閉鎖させた。該当企業は潔白だったにも関わらず、ブッシュ政権の圧力により、外国に出稼ぎしてる家族からの送金で生活していた多くのソマリア人が極度の貧困に陥った*1。おまけにイスラム教信者を無差別殺害するソマリア軍閥の「長」にアメリカが資金援助していたことも2006年に明らかとなった*2
 以上のような流れを鑑みると、痩せ細った海賊が巨大なアメリカ戦艦に相対する構図(上記画像)は非常にグロテスクだ。アメリカ合衆国等の経済大国、そしてソマリア軍部による「国と国との取り決め」により、1アメリカ人とソマリア漁師たちが被害にあった悲劇とも言える。

 映画としては、船をダンジョンとした「圧倒的戦力を持つ海賊vs地の利を知り尽くした素人船員」の闘いが面白い。あのままゲームに出来そうなアトラクション性。
【ネタバレ感想】
 後半は米軍が出動し「アメリカ合衆国vsソマリア海賊」の色が濃くなってゆく。本作は「ソマリア海賊出現の理由を描いていないからアメリカ寄りだ」と批判されているが、アメリカ資本で撮られた大作にしては冷静な視点を保ったと感じた。米軍が誇る戦艦の映され方にしても「アメリカが絶大な国力で弱いものいじめをしている」とも取れる感触。『バトル・シップ』終盤のように、戦艦を「偉大な存在」として誇示も出来たはずだ。又、トム・ハンクス演じるフィリップ船長の英雄性又は悲劇性を際立たせたいのならば、ラストは(序盤で小出しにした)家族との再開にするだとか、感動的スピーチをさせるだとか、色々出来たはず。スピーチと言えば一回だけフィリップが反抗したシーンがある。「お前は漁師じゃない」「若いのだから他の道は無いのか」と海賊長・ムセに説くのだ。この説法にムセは「…アメリカならな」と返す。

Captain Richard Phillips: There's got to be something other than being a fisherman or kidnapping people.
Muse: Maybe in America, Irish, maybe in America.

 ムセ自身はアメリカと自国軍部の繋がりなんて知らないだろうが、世界一の経済大国の船長に「他の道で生きろ」なんて平和ボケ説教をされたら「じゃぁ国籍交換しろ」って言いたくなりそうだ。アメリカに生まれていれば、ムセは海賊になんかならなかっただろう。「主人公1回限りの反抗」においても、アメリカ人よりソマリア人が印象を残す。

参考URL(2014年1月8日受信)
Captain Phillips Doesn’t Explain Why Somali Pirates Exist | Dissident Voice
ソマリア沖の海賊は“悪”か? 襲われた貨物船の船長が見たものとは - 日経トレンディネット

(TOHOシネマズ六本木ヒルズにて鑑賞)

ゼロ・グラビティ★★★☆〜性教育ビデオ〜


 宇宙空間の中で、人間は乳児どころか胎児の如き無力。おまけに漂流する宇宙飛行士はズブの素人!!一難去ってまた一難、バリバリの素人は無事帰還できるのか!?ということで絶対に宇宙に行きたくなくなる映画です。


 映像表現を最大限活かす短時間シチュエーションSFでありながら、メタファーが目立つ観念的映画。主人公は胎児であり地球は母*1。そう監督が言うように【生命の誕生】に関する表現がボンボン出てくる。その為、中高で見せられる性教育ビデオのような映像となっていた。まず。上記画像で主人公が縋るロープはへその緒っぽい。主人公に一時安息を与える宇宙船は子宮。このメタファーがどんどんモロになっていって「精子vs卵子」みたいなことに発展する。

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ハンガー・ゲーム2★★★★〜日本人にもウケやすくなったティーンズ大作〜


 大ヒットしたらクオリティを上げてくる速効性!ハリウッドの底力ゴイスー。脚本家、俳優、楽曲だけでなく衣装までもオスカー級を取り揃えたティーンズ大作*1バイオハザード』+『トワイライト・サーガ』的な作風で、現代アメリカ人がアガる為のアメリカン・アゲ永続ムービーとなっております。ハリウッドがグローバル志向になった昨今、ここまでUSAセンスと感じる映画も久々かも。批評家受けもセールスもかなり高く、あの『アイアンマン3』興行すら超える勢い*2。アゲ映画大好きな自分は大満足。沢山の笑顔をくれた『トワイライト』が終わってしまった今、これに縋り付いて生きるんや・・・!


 ハンガー・ゲームは何故こんなにもアメリカでウケるのか?それはやっぱり、未成年者が人権侵害を受けるバトルロワイヤル・ゲームの衝撃だと思う。「大人の都合で子ども達がこんな残酷な目に…信じられない…Oh…」ってな感じに。だけどこれ、日本人にとってはそこまで強烈ではない。なんせ『エヴァンゲリオン』が95年から在った国。大人たちの勝手な都合で子どもたちが殺し合いをする『バトルロワイヤル』も、父親&国際機関が中学生に戦闘を強制する『エヴァ』も、90年代から社会的認知を受けてきた。今となっては「過酷な闘いによって消耗し過呼吸になる姿」をコンテンツとするAKB48も国民的アイドル。アメリカでバトルロワイヤル映画が喝采を受けてる横で、日本はリアル・ハンガー・ゲーム集団が社会現象を巻き起こしていたのであ〜る。元から日本人は「組織の為に命をかける」精神が一般的アメリカ人より強いだろう。ハンガー・ゲームなんて言われても「今ごろBR?」ってな感じで、設定自体に新規性を見出さないのである。てわけで「未成年が人権侵害被害に遭い消耗してゆくコンテンツ」は、日本がアメリカより全然先を行っている。普通に面白ければ良かったけど『ハンガー・ゲーム1』つまんなかったしね。
 しかしながら、続編にあたる『ハンガー・ゲーム2』は日本人でも"泣きやすい"映画となっている。バトルロワイヤルに勝ったあとも続く「偽りの生活」…。。でも大切な人を護る為に嘘を吐き続けなければならない…!カットニス(主人公)可哀想!!!っていう誰もが悲しくなる設定。「いかように美しく映るか」なんて少しも考えてなさそうなジェニファー・ローレンスが迫力満点な1人芝居フィールドを創出。ってわけで一般的な日本人としても、1作目よりは見応えあるティーンズ映画となっております。

【ネタバレ感想】
 結局は「絶望の中で不条理と精一杯戦う子どもたち」ではなく「世界そのものを変える革命児・カットニスの物語」だった…っていう、非常にアメリカ的思想シリーズであったと判明する。そこもアゲ!!!

(よみうりホールにて鑑賞)

恋の罪★★〜美津子は罪悪感の化身〜


 「あたしの所まで堕ちてきなッーー!!!」 "堕"、又は"落"という表現を用いる時点で、美津子は「自分が標準平均より下にいる」認識を持っている。純粋たる狂人ではないのだ。そう捉えると非常にミクロな話に見えてくる。

【ネタバレ感想】

 要するに「家庭問題発コンプレックスから抜け出せずセックス依存症になった女が、他の女を道連れにしようとした」「死にたい女が殺してくれる女を利用した」ってだけなんじゃないの。度々引用される『帰途』は名詩であるが、それにしても、美津子が言葉を用いて罪悪感から逃避する為の道具に過ぎない。そもそも彼女が求める城にしても『カフカの城』なんだから、辿りつけたとしても永遠の迷子じゃん。
 では、本作はどのようなテーマを持つのか?下記の監督インタビューにそれが語られている。

 参照;http://www.pia.co.jp/chubu/starcat/ent/1110282.html

 いずみは、美津子が「抑圧からの解放」としてのセックスに準じている人物だと思ったから彼女を仰いだ。しかしながら、結局、美津子のセックスは男性に向けられたもの=男性コンプレックス由来だと発覚する。「性行為=生を実感するデバイス」と捉えるいずみは美津子の下を去り、社会的に堕落しようと幸福を感じ満面の笑みを携えていた。…ってことで、いずみが一番世間的常識からは離れていた人格だった、ってオチらしい。美津子と吉田刑事のセックスはある意味の自傷。いずみのセックスだけは自慰。解説を聞くと中々面白いんだけど、それなら、いずみのセックス観とか結末での幸福をもっと丁寧に描くべきじゃなかったのか。
 あと、東電OLを下敷きにしていることが喧伝されるけど、流石に「母親が娘を殺害した」ってオチは問題では…。実在の事件にインスピレーションされ生まれた作品、程度のコメントで良かった。

(DVDにて鑑賞)