ヘルボーイ★★★〜DQNネームからの脱出〜


 「そしてワシらは彼をヘルボーイと名づけた・・・。今思うと酷い名前じゃが・・・。。」 今思わなくても酷い名前だろ ということでDQNネームをつけられた青年(?)の話です!


 人間ではないDQNネーム身の上なので反抗期が続いているヘルボーイ。その世話役として雇われたのがFBIの青年。ありがちな導入なので、2人はバディとして心を通わせ・・・と思ったらFBIはヘルボーイの彼女を寝とっていた。つ、辛い・・・。ていうかFBI、お前「草食系だけどツッコミ役のいい奴」ポジション失格だろ!『2』には出てないしな!(正確にはヘルボーイの想い人であり彼女じゃありませんが)
 続編にあたる『ゴールデン・アーミー』を先に見てたんだけど、そちらと異なり結構シリアスだった。いつも通りデル・トロは起承転結をしっかり抑えた構成にしている。ボリュームや爽快感は続編の方が上。骨格は王道of王道だけど、その分「緻密な設定」で構築された世界観が素敵。デル・トロ監督って「画彩が個性の真面目な作家」だなぁと思いまんた。現行アメコミでは1番好きなシリーズなので、早く3が見たい〜。

WOWOWにて鑑賞)

蛇イチゴ★★★☆〜放蕩息子の帰還〜


 新約聖書にこのような話がある。

放蕩息子のたとえ話 - Wikipedia
ある人に二人の息子がいた。弟の方が親が健在なうちに、財産の分け前を請求した。そして、父は下の息子の要求通りに与えた。そして、下の息子は遠い国に旅立ち、そこで放蕩に生きて散財した。大飢饉が起きて、その放蕩息子はユダヤ人が汚れているとしている豚の世話の仕事をして生計を立てる。豚のえささえも食べたいと思うくらいに飢えに苦しんだ。
我に帰った時に、帰るべきところは父のところだと思い立ち、帰途に着く。父は帰ってきた息子を走りよってだきよせる。息子の悔い改めに先行して父の赦しがあった。
父親は、息子のために祝宴を開く。しかし、兄はそれを妬んで父親に不満をぶつけ、弟を軽蔑する。兄は父親にたしなめられる。

 全文はこちら→http://www.rikkyo.ne.jp/~kayama/mokusou/2001mar25sun.htm

 兄の言い分はこうだ。「このとおり、わたしは何年もお父さんに仕えています。言いつけに背いたことは一度もありません。それなのに、わたしが友達と宴会をするために、子山羊一匹すらくれなかったではありませんか。ところが、あなたのあの息子が、娼婦どもと一緒にあなたの身上を食いつぶして帰って来ると、肥えた子牛を屠っておやりになる。」。この物語はキリスト教においてもメジャーで、教会のディスカッションに用いられることが多い。普通なら兄貴が可哀想だと感じるこの話から、神は何を伝えたいのか?それを読み解くのだ。まぁ俗世の人間だから兄貴に同情しちゃうよね、って第一印象になるんだけど、「記述が無いだけでこの家族は元々崩壊していたのでは?放蕩息子が戻ってきた衝撃で問題が吹き出たってだけなのでは?」って分岐になるのがこの映画『蛇イチゴ』である。


 『放蕩息子のたとえ』における弟は『蛇いちご』において「勘当され犯罪行為を繰り返している兄」だ。放蕩息子の兄は、こちらでは「教師の妹」にあたる。兄は学生の頃から妹の下着を売っていたような人間で、今は香典泥棒。恥知らずな男だ。そんな男の皺寄せを喰らう妹には同情してしまうが、彼女は過度な潔癖主義で、職場(学校)で「嘘を吐いて楽しようとしている生徒」を見ると「それが本当に嘘か」検証せず断罪する。小学校教諭としては大きな問題が生じている。
 本作は祖父の死をきっかけに、家族が取り繕ってた「表面」が破壊され、歪みが全面に噴出する構成だ。祖父の葬儀に勘当した兄がやってきた。それまでは平和に"見えた"家庭が、たちまち崩壊してゆく。結婚を控えている真面目な妹は、修羅場の起点となった兄を追い出そうとする。ちなみに、兄が再び家に戻れた理由は、父親が秘密裏に借りた金の始末を得意の詐欺トークで一時解決してくれたから。一家の大黒柱である父はリストラをされたことを隠しており、借金を積み重ねていた。祖父が亡くなった理由は「認知症ゆえの喉づまり」であるが、介護をしていた母親はそのことに気づきながらも見殺しにした。導入の時点で全然"素敵なご家庭"じゃないのである。妹の主張通り兄貴を追放しても、問題は解決しないだろう。元々ひび割れていたものが完全に壊れてしまったのだから。
 思うに、(兄を除いた)この家族みんな、認知症の祖父を「ワルモノ」扱いして、どこか安心しながら見下してたんだろう。「認知症の祖父の視点で映される仲良し家族」が「歪んだ画面エフェクト」ってシーンのスパイスが面白い。

【ネタバレ感想】
 この家族は嘘ばっかりだ。父親はリストラと借金を隠しながら「傲慢な大黒柱」然を振りかざし続ける。母親は男衆に対し意見を言わず、ただ男達の会話を聞いて笑いながら頷く「古典的専業主婦」。腹の底では沢山のヘドロを溜めているのに。兄は嘘を商売道具にしている。妹の嘘は、まず婚約者に兄の存在を隠していたことだ。おまけに「お父さんは厳格で素敵」「母親は楽しく介護をやっている」みたいな物言いも、嘘を吐いてるわけではないが、あまりに鈍感。これらの言葉は(妹ほど鈍くない)婚約者側にとっては「嘘」となる。小学校でのシーンを見るに、彼女は何よりも嘘が嫌いなのだろうけど、最後の最後で兄に「嘘」を吐く。だからこそこの妹は被害者として同情しきれないのだ。大きな嘘のあとに帰った家で、妹の前に現れる「真実」の姿は、この映画で唯一美しい。

WOWOWにて鑑賞)

リンカーン弁護士★★★★〜銃社会のリーガル・ハイ〜


 「男女のもつれ発の殺人事件を担当したら依頼人が犯人っぽい」…先日最終回を迎えた人気ドラマ『リーガル・ハイseason2』に似たプロットだ。主人公が銭ゲバかと思いきや、ストーリーが進むうちに「心を入れている隣人の存在」が発覚する構成も一致。ついでに2人とも偉大な弁護士であった父親にコンプレックスを抱いている模様。

 コメディタッチな『リーガル〜』と異なり、『リンカーン弁護士』の作風はドライ。ミステリノベルを巧み映像化している。弁護を受け持つ上での「危険度」も全く違う。本作では「拳銃」が大きな要素として登場するが、主人公造型が似ている『リーガル〜』と比較することで銃社会の恐ろしさもビンビン感じられる。古美門ってアメリカじゃぁとっくに狙撃されてそう。

【ネタバレ感想】

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ウォールフラワー★★★〜不良品おもちゃたちの島〜


 “Welcome to the island of misfit toys” サム(エマ・ワトソン)は、自分たちをこう形容する。直訳すると「不良品おもちゃたちの島」で、USキッズ・アニメ"Rudolph the Red-Nosed Reindeer & the Island of Misfit Toys"からの引用だ。これはクリスマス映画らしく、不良品おもちゃ達が「子ども達の愛」を求めて叫ぶシーンがあるらしい。


 やや自虐的な表現であるが、彼女がそう言うように、主人公たちは全員「傷」を抱えており、どこかで「愛」を求めている。おもちゃ達と異なるのはその欲求を叫べていないところだ。チャーリー(ローガン・ラーマン)はPTSDのせいで人と関わることを恐れ、本来のコミュニケーション能力をほぼゼロにしてしまっている*1。サムは実父を軽蔑しながら、恐らく実父のような「クソ男」と恋愛をしている。パトリック(エズラ・ミラー)は一見悩んでいないように見せているが、男性の恋人の存在を必死に隠している。女生徒に"Suck it!!"ジョークを飛ばす癖は秘密を抱える不安から生じているのだろう。フューチャーされないアリス(エリン・ヴィルヘルム)にしても、家が裕福なのに万引きを繰り返している。


 【自分だけは自分の味方だ】という自己肯定感は本来、家庭で育まれる。しかしながら様々な問題により過度な自信不足に陥った子どもたちがいる。そんな学生たちに「自分は価値ある人間だ」と教えてくれるのは、素晴らしい親友たちだ…ーこれが本作のストーリー・ライン。だけれど「友情だけでは負われない問題」をも扱っている。子ども達の傷は「高校だと皆悩むよね〜っ☆」では到底終われない社会問題まで行っちゃている。だからこそ原作小説はヒットしたのだろうし、その傷を描ききれていないからこそ本映画は雰囲気映画に留まってしまった。ラストで主人公に振りかかる展開は尺が足りていないし、サムとパトリックの問題はやや投げやりだ。どうやら、レイティングの問題で、原作にある性暴力を大幅カットしたらしい。

【ネタバレ感想】
 主人公は、性的虐待をしてきた叔母を自分が殺めたと思っていた。存在を肯定してくれる素晴らしい友人、善良な大人に助けられた訳だが「傷とどのように向き合ったか?」。それを描いていない。映画的快楽が欠如してる理由の1つ。
 サムは実父がDV加害者*2だった上に、その父の同僚に性的虐待をされた。それ故に自己評価が著しく低かったが「君は価値ある人間だ」と主人公に教えられ、傷を乗り越え、大学で自由を謳歌している。
 パトリックは、当時のセクシャル・マイノリティの立場を思えば、どれだけ傷ついているか想像するのは容易だ。しかしながら、なによりもあのキスシーンに苦悩が詰まっている。やはりエズラ・ミラーはいいですね。

(TOHOシネマズシャンテにて鑑賞)

*1:「コミュ障なのに能動的すぎる」と批判されているが、彼は元々そこまで「人に話しかけられないタイプ」ではないのでは。そこまで、彼が負っている傷は本来の個性を抑制してしまっている。

*2:物理的暴力だけでなく精神的暴力も入れたDV。

ストロベリーナイト★★〜乙女ゲーから恋愛小説へ〜


 恋に重要なのは、共感とギャップ…であるならば、「殺人者の心」を持ったヒロインが恋するのって、もしかしたら「殺人者」なんじゃない?って話。


 ドラマ『ストロベリーナイト』は乙女ゲー構造である。個性豊かなイケメンに囲まれるリーダー・竹内結子。イケメン達は問題あれど、主人公を慕っており、他の女にうつつを抜かさない。ミステリの完成度も去ることながら、多くの女性達がこの構図に(無意識ながら)エキサイトしただろう。
 一方で、続編となる本作は「乙女ゲー」ではない。フラグの立つ男性は西島秀俊大沢たかおの2人しか居ない。キャラ属性は「慕ってくれる刑事」と「誘惑してくるヤクザ」。冒頭で述べたように、竹内結子が「操作対象(殺人者っぽい男)」に女として惹かれてしまうストーリー。女性性に重きが置かれているので「恋愛小説」的。その分、チームメイトが出てこない為、ドラマでは盛り場となっていた「姫川班のチーム戦」は欠如してしまっている。TVシリーズの方が面白いと思うけど、一応言っとくと竹内結子が濡れ場やってます。盛り場が無いだけに。

WOWOWにて鑑賞)

かぐや姫の物語★★★★★〜現代女性肯定から"地球人向け"映画へ〜


 ジェンダー要素で賞賛される一方で「主人公がワガママすぎる」と怒られるこの映画。実は、高畑監督もかぐや姫のことをワガママ認定している。そしてこう付け加える。「彼女は現代の娘が平安時代にタイムスリップした姿」と。その上で、彼はそのワガママさを肯定するのだ。

氏家さんに持っていったら、ものすごい集中力で読み始めました。一枚一枚丁寧に読んで、2時間半ぐらいかかりました。「どうでした?」と聞いたら、「かぐやって、わがままな娘だな」と。そして続けて、「でもやっぱりな、女はわがままに限る」と言ったんですよね(笑)。この話を高畑さんに伝えたら、また喜んで「その通りなんですよ。僕はわがまま娘を描いているんです。わがままなのが、現代の娘の最大の特徴でしょ。僕はなにも昔の物語をそのまま描こうと思ったんじゃない。現代の娘があの時代にタイムスリップして、その時代の中で何をしたか。それを観ることが大きなテーマになるんじゃないかと思ったんだ」と言い出したんですね。 -http://www2.toho-movie.jp/movie-topic/1212/05kaze_kaguya_sk.html

 個人的には、主人公を我儘とは思わない。流れの概要はこんな感じ。 →何も強制されて来なかった田舎娘が、突然都会に連れて来られ、急に高貴な女性修行を強制される。だけども、ある日、自分が高貴な女性になれないことを知ってしまう。父は都会富裕層から嘲笑されていることに気づいていない。だから逃げるわけにも行かない。友達もつくらせてもらえないし、そもそも外に出られない。
 「ここ(上流階級)で自分はセックスワーカーとして"しか"求められていない」…って心境だろう。姫でありながら娼婦。よしながふみが『大奥』で描いた綱吉みたいだ。まぁ、急に教育姿勢をド変更したパパが大分悪いのである。現代風に言うと、娘を神だと祀るセフル・カルト宗教にハマった迷惑父親って感じ。…って、ここも『大奥』と似てる…。

 「大好き!」ってわけではないけれど「人生最後に見る映画はこれでいい」ってコメントには同意してしまう。なにかとレアな映画。既に言われてる通り、歴史的大作でしょう。
【ネタバレ感想】
 本作が「歴史的大作」である所以は、地球自体を肯定してしまう結末にある。「平安時代の田舎出身美人が都会で嫁候補鍛錬を強制される」という人生ハードモード設定が見事。ここだけとると女性を描いた作品に見えるが、人類の被害者・かぐや姫が「ここに生まれて良かった」と宣言することで「地球への肯定」譚へと転向する。月での生活も思い出したと言うのに、決して愚かな人類を見下さない。それどころか、人間の業もろとも、賛美するのだ。非常に日本的でありながら、最終的に地球人に向けた物語として着地する壮絶な構成。書いてて思ったけど、かぐや姫って【死の間際に人類を肯定したver.のイエス・キリスト】っぽい。

(TOHOシネマズ六本木にて鑑賞)

『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』★★〜「ネトウヨの言うことって本当?」人向け教科書〜

ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」 (宝島社新書)

ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」 (宝島社新書)

 みんな、2chまとめブログ読んでますかー?その中で「ネトウヨ」、噛み砕けば「韓国DIS」ってよく見ますよね。「ネトウヨ」というのは今日のwebムーブメント。2chの有名まとめブログは、ノンポリより右翼思想の方が多いんじゃないか。昨今の国際状況もあって、まとめ読者には韓国嫌いな人が多いですよねー。 だけど、まとめブログやネトウヨの言う「韓国叩き」って本当なの? So感じたこと、ありますか?韓国人はレイパー民族。日本で犯罪を起こすのは韓国系。ネットの皆はこれを前提にして語ってるけど、果たして本当なの…?ってね!!
 そんな「ネトウヨへの微かな疑問」に答えるのがこれ!『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』だー!!! ・・・つっても当たり前に嘘だろ!「全員犯罪を犯す民族」って、本当だったら逆に凄いだろ!!「絶対に犯罪を犯さない民族・日本系」ってのもすげー!怖いわ!

 …しかしまぁ、そんな当然のことを、有名ライターさん方が本にして伝えなくてはならない状況が、今。ネトウヨはこう言ってるけど、実際はこんな感じなんですよ」と教授してくれる優しい本です。少し考えればわかることを優しく教えるていなので、韓国系or右翼思想研究本としては他に良いものがある感じ。その代わりサクっと読めるし、日々ネットサーフィングで抱く疑問&微量ストレスが大幅改善されます。
 個人的には、さして反日思想ではない…と言うか、日本のGDPは世界3位(8.4%)/大韓民国GDP15位(1.6%)なんだから、サウスコリアにそんな影響力があるわけないだろって考えです。
 
【目次】
1章 ネット右翼のリアル 安田浩一(外国労働者の専門家が在日コリアンの現状を冷静に書く)
2章 弱者のツール 山本一郎 (ネットに精通してる著者がwebからネトウヨを考察)
3章 メディアの反日陰謀論−考えすぎだ、メディアにそんなガッツはない 中川淳一郎 (博報堂社員/編集者経験から日本メディアの雰囲気を語る)

 以下、ザックリすぎる概要と、面白いな〜と思った要素紹介。

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