ウォールフラワー★★★〜不良品おもちゃたちの島〜


 “Welcome to the island of misfit toys” サム(エマ・ワトソン)は、自分たちをこう形容する。直訳すると「不良品おもちゃたちの島」で、USキッズ・アニメ"Rudolph the Red-Nosed Reindeer & the Island of Misfit Toys"からの引用だ。これはクリスマス映画らしく、不良品おもちゃ達が「子ども達の愛」を求めて叫ぶシーンがあるらしい。


 やや自虐的な表現であるが、彼女がそう言うように、主人公たちは全員「傷」を抱えており、どこかで「愛」を求めている。おもちゃ達と異なるのはその欲求を叫べていないところだ。チャーリー(ローガン・ラーマン)はPTSDのせいで人と関わることを恐れ、本来のコミュニケーション能力をほぼゼロにしてしまっている*1。サムは実父を軽蔑しながら、恐らく実父のような「クソ男」と恋愛をしている。パトリック(エズラ・ミラー)は一見悩んでいないように見せているが、男性の恋人の存在を必死に隠している。女生徒に"Suck it!!"ジョークを飛ばす癖は秘密を抱える不安から生じているのだろう。フューチャーされないアリス(エリン・ヴィルヘルム)にしても、家が裕福なのに万引きを繰り返している。


 【自分だけは自分の味方だ】という自己肯定感は本来、家庭で育まれる。しかしながら様々な問題により過度な自信不足に陥った子どもたちがいる。そんな学生たちに「自分は価値ある人間だ」と教えてくれるのは、素晴らしい親友たちだ…ーこれが本作のストーリー・ライン。だけれど「友情だけでは負われない問題」をも扱っている。子ども達の傷は「高校だと皆悩むよね〜っ☆」では到底終われない社会問題まで行っちゃている。だからこそ原作小説はヒットしたのだろうし、その傷を描ききれていないからこそ本映画は雰囲気映画に留まってしまった。ラストで主人公に振りかかる展開は尺が足りていないし、サムとパトリックの問題はやや投げやりだ。どうやら、レイティングの問題で、原作にある性暴力を大幅カットしたらしい。

【ネタバレ感想】
 主人公は、性的虐待をしてきた叔母を自分が殺めたと思っていた。存在を肯定してくれる素晴らしい友人、善良な大人に助けられた訳だが「傷とどのように向き合ったか?」。それを描いていない。映画的快楽が欠如してる理由の1つ。
 サムは実父がDV加害者*2だった上に、その父の同僚に性的虐待をされた。それ故に自己評価が著しく低かったが「君は価値ある人間だ」と主人公に教えられ、傷を乗り越え、大学で自由を謳歌している。
 パトリックは、当時のセクシャル・マイノリティの立場を思えば、どれだけ傷ついているか想像するのは容易だ。しかしながら、なによりもあのキスシーンに苦悩が詰まっている。やはりエズラ・ミラーはいいですね。

(TOHOシネマズシャンテにて鑑賞)

*1:「コミュ障なのに能動的すぎる」と批判されているが、彼は元々そこまで「人に話しかけられないタイプ」ではないのでは。そこまで、彼が負っている傷は本来の個性を抑制してしまっている。

*2:物理的暴力だけでなく精神的暴力も入れたDV。