かぐや姫の物語★★★★★〜現代女性肯定から"地球人向け"映画へ〜


 ジェンダー要素で賞賛される一方で「主人公がワガママすぎる」と怒られるこの映画。実は、高畑監督もかぐや姫のことをワガママ認定している。そしてこう付け加える。「彼女は現代の娘が平安時代にタイムスリップした姿」と。その上で、彼はそのワガママさを肯定するのだ。

氏家さんに持っていったら、ものすごい集中力で読み始めました。一枚一枚丁寧に読んで、2時間半ぐらいかかりました。「どうでした?」と聞いたら、「かぐやって、わがままな娘だな」と。そして続けて、「でもやっぱりな、女はわがままに限る」と言ったんですよね(笑)。この話を高畑さんに伝えたら、また喜んで「その通りなんですよ。僕はわがまま娘を描いているんです。わがままなのが、現代の娘の最大の特徴でしょ。僕はなにも昔の物語をそのまま描こうと思ったんじゃない。現代の娘があの時代にタイムスリップして、その時代の中で何をしたか。それを観ることが大きなテーマになるんじゃないかと思ったんだ」と言い出したんですね。 -http://www2.toho-movie.jp/movie-topic/1212/05kaze_kaguya_sk.html

 個人的には、主人公を我儘とは思わない。流れの概要はこんな感じ。 →何も強制されて来なかった田舎娘が、突然都会に連れて来られ、急に高貴な女性修行を強制される。だけども、ある日、自分が高貴な女性になれないことを知ってしまう。父は都会富裕層から嘲笑されていることに気づいていない。だから逃げるわけにも行かない。友達もつくらせてもらえないし、そもそも外に出られない。
 「ここ(上流階級)で自分はセックスワーカーとして"しか"求められていない」…って心境だろう。姫でありながら娼婦。よしながふみが『大奥』で描いた綱吉みたいだ。まぁ、急に教育姿勢をド変更したパパが大分悪いのである。現代風に言うと、娘を神だと祀るセフル・カルト宗教にハマった迷惑父親って感じ。…って、ここも『大奥』と似てる…。

 「大好き!」ってわけではないけれど「人生最後に見る映画はこれでいい」ってコメントには同意してしまう。なにかとレアな映画。既に言われてる通り、歴史的大作でしょう。
【ネタバレ感想】
 本作が「歴史的大作」である所以は、地球自体を肯定してしまう結末にある。「平安時代の田舎出身美人が都会で嫁候補鍛錬を強制される」という人生ハードモード設定が見事。ここだけとると女性を描いた作品に見えるが、人類の被害者・かぐや姫が「ここに生まれて良かった」と宣言することで「地球への肯定」譚へと転向する。月での生活も思い出したと言うのに、決して愚かな人類を見下さない。それどころか、人間の業もろとも、賛美するのだ。非常に日本的でありながら、最終的に地球人に向けた物語として着地する壮絶な構成。書いてて思ったけど、かぐや姫って【死の間際に人類を肯定したver.のイエス・キリスト】っぽい。

(TOHOシネマズ六本木にて鑑賞)