これは映画ではない★★★★★〜世界よ、これは映画か〜


  ーー「映画」をつくったら速攻逮捕。だから これは映画ではない

イラク政府に20年間「映画製作禁止」を命じられた監督が、家の中で「映画ではないもの」をつくろうとします。
彼はマンションの中で「映画ではないもの」づくりを開始。
「映画を撮ってはいけない」「脚本を書いてはいけない」のなら、「執筆していた既存の脚本」を「ただ朗読するだけ」で友人に撮影してもらえば「これは映画ではない」ことになる… ってトンチ勝負!
これがその舞台。

わ、ワークショップ・・・。 (劇団とかの)(つまりショボい)
「演劇どころかおままごとやんけ!!」な状況で映画を再現する監督。 ←不謹慎かつ失礼
このパナヒ監督は監督作品5作にしてヴェルリン・ヴェネチア・カンヌの3冠を受賞した名匠。
そんな大作家の脚本読み・映画論を聞けるという面でもかなり豪華な一本です。
話されるのは「映画を喰う素人役者」論、「主演となる背景(舞台)」論。


物語はゆかいなテンポで進行。
ちなみに、監督がつくろうとしている作品の筋は・・・。
「美術大に受かったヒロイン。しかし保守的な両親は芸術を学ぶことを反対し、少女を監禁。出願書類を提出しなければ入学が取り消されてしまう。そんな状況でヒロインの両親は、彼女を家に閉じ込めたまま旅行に行ってしまう・・・。」という室内劇。
「1週間旅行行くけど1週間分のエサ出しとけば大丈夫だよね?」と言い残し犬を置いてく感覚 で娘を監禁。。。
犬も放置しちゃいかんと思いますが。チェーホフ原作らしいですよ。


監督が「映画を作ったら即逮捕」ってことはガチなので、「ゆるい空気」と言っても冗談にはなりません。
この映画は色々な映画賞を獲ってますが、「映画として」評価されればされるほど更なる厳重処罰フラグが…。
作中、パナヒ監督は、熱心に脚本を朗読していると思ったらいきなり「…読むだけで済むならなぜ映画なんか撮る」と呟きます。
"This is not a film”という題は、トンチも含ませながら、「こんなの自分が完成させたい映画の貌ではない」という心も込められているのかな、と感じました。

さて、果たしてこれは「映画」なのか?
そもそも「映画」とはなんなのか。
ただ「シアターで上映される映像」が「映画」ならば、オールナイトで上映される1クールアニメも「映画」ということになる。
最後にはiPhoneで男の生活を撮っているだけの本作は、「映画」でなければなんなのか?
「自分にとっての映画」を考える切っ掛けにもなる作品です。
個人的な見解としては、「人間を映し作り手の魂がこもっている、劇場鑑賞用に作られた映像作品」が「映画」だと思います。
自分にとってこれは映画です。
(シアター・イメージフォーラムにて鑑賞)