戦火の馬★★★★〜言葉なき戦争映画〜


 映画監督・黒沢清は「スピルバーグは人間など描いていない」と発言した。これは批判ではなくむしろ大々大賛美で、今は映画で人間を描いてもあまり意味は無いし映画は「歴史」を描くことができるメディアである(それをスピルバーグは証明している)という主旨。


 黒沢清の言葉に呼応するように、本作の主人公は人間ではない。馬である。お馬さんが各地を駆け巡り道中で恋に落ちたりする。人気俳優トム・ヒドルストンベネディクト・カンバーバッチの出演は短い。一応人間キャラのメインは最初の飼い主となる青年だけど、映画中最も美しいシーンには不在。やっぱり馬が主演なわけである。
 舞台は「戦争」。第一次世界大戦の始まりから終わりを馬が駆け巡る。英国軍と言えど動物なので、敵国の人間にも慈愛をかけられたりする。そこからあぶり出されるのは「戦争参加者の大半は被害者であり善人」というメッセージ。「どうせ死ぬウォー・ホースに名前をつけるな」という台詞を踏襲するかのような、2人の兵士が名乗り合うシーンが素晴らしい。


 主人公の馬は動物だからもちろん言葉を話さない。犬のように身体を使った感情表現も乏しい為、映画の主役に据えるのはかなりハイリスクと言える。それなのに『戦火の馬』が「王道映画」と言われる所以は画面表現であろう。お馬さんの演技も凄いが、その印象すらも「画面が発する説得力」が大きく影響する。もうヤヌス・カミンスキーの撮影だけで100点満点。「視覚表現だけで物語を語る」絵画のよう!言葉が無くても、人間を主役にしなくても、映画は戦争を十分に描けるのだ。むしろ、人間が主人公でないからこそ描ける「戦争」がある。
 筋自体は完成度高き画面に遅れをとってる印象。映画館で見たほうが良い映画や…!

WOWOWにて鑑賞)