終の信託★★★★〜愛かはわからない恋の話〜


  ーー医療か?殺人か?
患者を尊厳死させた女医が起訴されるはなし


「愛想が一切無い女優」・草刈民代が女医役。
もう一度言います。
彼女は「愛想」が無いのです・・・。 それ故の孤独、哀しみ、性、ゲロ・・・!
それを夫の周防監督が撮ってるという事件。
監督は完全に民代のことわかってますよ。身体の隅々から肌の質感まで理解した撮り方。濡れ場より嘔吐シーンの方がエロいって相当!恐らくこの夫婦はまだ蜜月を重ねていますよ!! (下衆)
監督、なんと「夫が妻の濡れ場を撮ることは二人とも気にしていない」とコメント。
正に「夫婦で映画をやっている」領域です。「二人で映画を撮ってる」って名詞ではなく、「二人で映画をやっている」という動詞なのです。


患者の役所広司はロマンチックおじさん=完全にヒロイン。
いやに乳輪の黒いヒロインでしたが。
劇中に『私のお父さん(プッチーニ)』は父親を脅して金をせびる歌だ、と説明してましたが、
役所さん本人は草刈民代を脅していた。 (車中のシーン 実質的には)
「せめて一言、shall we dance?って言ってやれよ!」ってモヤモヤが悲しい。


殺人疑惑で起訴された民代を追い詰める検事にはたかお(大沢)。
これが凄い・・・。
架空の人物に本気でムカつきました。
民代に対する「お前は殺人者だ」という意見が正論だからこそ、ムカつくのです。
『JIN』でのいい人ぶりはどこへ行ったのか…。
仁先生ならスーパー医療で役所を治せよと言いたかった。
綾瀬はるかが泣いてるぞ!

たかおと民代にはなんらかの賞を貰ってほしいです。


医療面については、日本尊厳死協会副理事長・長尾和宏さんの「愛で医療で殺人だ」という感想が素晴らしいので、是非読んでください。
 [参照;「終の信託」を試写会で観た|Dr.和の町医者日記]

自分にとってこれは「出会うのが遅すぎたラブストーリー」である。
草刈民代役所広司の妻だったら、あんな結末を迎えただろうか?
もっと前に出逢えていれば…。民代が酒を飲む前に、はたまた役所が満州であの言葉を聞く前に…。
そんな現実逃避の「もしも」を無視して「医者と患者」の二人は出逢ってしまった。彼女が東大医学部に入ってしまったから。彼が病気にかかってしまったから。
果たして悲恋だろうか。周防監督は「真実」も「泣き所」も「善悪」も差し出さない。プッチーニじゃないけど、この映画は悲劇なのか?
草刈民代が自分の決断に最後まで後悔していなかったら、これは悲恋ではないと思う。
愛かはわからない、「恋」の物語。
その恋が愛へ成熟するには、出逢うのが遅すぎた。

【ネタバレ感想】
 草刈民代が初めて漏らした本音。「私だって生きていてほしかった」。この言葉が映画を恋の物語にしている。ラブストーリーとして見ると「自殺願望の難病男と自殺未遂女」って凄いカップルになりますが。役所広司にとって「先生」とのひとときは、死にゆく前の子守唄だったのではないか。

(TOHOシネマズ六本木にて鑑賞)