アルバート氏の人生★★★★〜これが本当のレ・ミゼラブル〜

アルバート氏、萌えキャラじゃん!
19世紀のアイルランド格差社会・女性不利なそこで、アルバート氏は「男」として生きるしかなかった…。
正攻法で作られた貧困時代劇。こういう小手先が無いストレートな映画は久しぶりだった。


アルバート氏は「男になりたくて」男装したわけではないんだよね。「生きる為に」男として生きて、そのせいで深い人付き合いも出来なくて、ここまで生きてきた人間。自分のお店を持つ夢が唯一の生き甲斐なのさ。
それで色々あって、想い人を見つけ、恋に走るんだけど(秘密を抱えている為)コミュニケーション経験が少ないから物凄い恋愛下手。恋愛シーンだけ40歳の童貞男』!


その純情なアルバート氏をひっかけるのがこの若いカップル。2人でアルバートから金を巻き上げる!久々のヒールっぷりであった。
中盤のこいつらは『魔女宅』の「あたしこのパイ嫌いなのよね」女のライン。
ミア・ワシコウスカの演技がとても良い。
彼氏もゲス役がハマっていた。『キック・アス』の主人公らしいじゃん。
非モテオタクのふりをしておいて、こんなに美青年だったんだね。
恋愛禁止アイドルの合コン写真を見たファンのような気持ちだよ!!

【※ネタバレ感想】
 レ・ミゼラブル(「悲惨な人々」)である。アルバートも、ヘレンも、ジョーすらも「貧困」の被害者だ。アルバートは貧困ゆえに性を偽る人生を強いられる。ヘレンは貧困ゆえにただ働きのシングルマザーに準ずる。ジョーは父のようになりたくないコンプレックスに苦しむ。
 アルバートはヒューバートに憧れるが、似ているようで2人は違っている。ヒューバートは同性愛者である自分を受け入れている。アルバートは自己確立ができておらず「自分が男なのか/女なのか」「自分は男が好きなのか/女が好きなのか」すらわかっていない。(恋路にしたって「ヒューバートのようになりたい」妄想にピッタリ合致したのが彼女だというだけで、一人の人として好きだったのか疑わしい。ただ、ヘレンは実母にとても似ている。)女性服を着るシーンでの出で立ちは対照的だ。ヒューバートは男性に見え、アルバートは女性に見える。それなのにアルバートはヒューバートのように生きようとする。ヒューバートが同性愛者であることは明確だが、アルバートは同性愛者なのか?性同一性障害者なのか?それは最後までよくわからない。明白なのはただ「環境が彼女を男として生きさせた」ことだけ。
 アルバートを「そうさせた」のは貧困である。貧困が無ければ「アルバート氏の人生」は沢山の他人から哀れまれることもなかっただろう。新聞で文字だけ追えば、確かに彼(女)の一生はミゼラブルだ。でも、せめて、夢見ていた時、「理想のタバコ屋」を想像していた時だけは、幸せだったことを願う。人生ただ一つの希望が「妄想」でも、無いよりずっと良い。人の「妄想」を否定できる権利を持つ人間なんか居ない。アルバート氏の人生は見ていてとても辛いけど、アルバート氏の夢は涙が出るほど愛おしい。
(TOHOシネマズシャンテにて鑑賞)