ゼロ・ダーク・サーティ★★★★★〜最初からむなしさだけがある〜


アカデミーには、戦う前から勝っている。
 冷静すぎる視点を持ちながら、一方で情熱と呼ぶには狂気的なまでの執念が確かに感じられる。大きすぎて複雑すぎる題材を扱いながらも一人の女性の物語に帰着させている本作は正に力作だ。他オスカー作品賞ノミニーに比べ、本気の議論が巻き起こったのはその証である。CIAによる虐待・男性社会の否定どころか、現行オバマ政権の批判(と捉えられるもの)までやってしまっている。
 絶対に作品賞なんてとれるわけない。それどころかアメリカ政府のビンラディン討伐すらも、嘘だったと明かされるかもしれない。けれど、50年後も100年後も残ってゆく映画だと思う。


ビンラディン暗殺に執念を燃やしたCIA女性捜査官」の話。
事件の結末はみなさんご存知の通り。にも関わらず、2時間40分ずっとハラハラして見れました。
そして気づいてしまった。
この映画、もしドラっぽい・・・。

『ZDT』と『もしドラ』の共通点
・男性社会で空気の読めない女性が頑張る
・周囲から嫌がられる
・女性の友達、女性の後輩
・最終目標である「勝負」に主人公は参戦しない

最後も『もしドラ』っぽかった。夢の中にオサマビンラディンが出て来てエールを貰う」展開は無いけどね!


【※ネタバレ展開】
 感動はしない。というか、させてもらえない。ビンラディン討伐にすらカタルシスは無い。復讐達成における甘美なんて味わうには罪深いほどに、3.11以後は色々あったのだ。そこに善悪の定義を用いても虚しいだけの絶望や犠牲が、ありすぎたのだ。その空虚さを、大きな興収ビジネスとして機能しているハリウッド映画で描き切るところが物凄い。映画は娯楽でありながら信念をも背負える媒体だという確信、それを一観客の自分でも持つことが出来た。全く感動は出来ない物語だが、この映画の存在そのもに深い感銘を受ける。
 製作発表時のタイトルが『For God and Country』だったことも驚きだ。このむなしい物語を見て、アメリカは、そして神は何を思うのだろう?それとも神なんて、最初から存在しないのだろうか。

(TOHOシネマズ 六本木ヒルズにて鑑賞)