桜、ふたたびの加奈子★★★☆〜美しきグロテスク〜


最初の15分は完璧。だと思った。
 このような構造化したメタファーで執拗に攻める演出は、最近の邦画では珍しい。序盤のナイフのような美しい残忍性はハネケ監督作を思い出した。この映画の序盤。子どもが好きな白いアイスクリームが上から映り、そして彼女は交通事故に遇い逝去する。映画はすぐ葬儀に入り、直後「先程のアイスクリームと見間違えるようなカメラで」上から娘の骨が出現する。なんて美しいグロテスク。グロテスクな美しさ、ではなく、あくまでも美しきグロテスク。いくら桜や流れ行く水のカットで心を動かされようと、「愛娘が死んでしまったこと」は代わり難い哀しみなのだから。


稲垣吾郎広末涼子夫妻が小さい娘を亡くしたところから始まり、葬儀・初七日・四十九日・一周忌...と展開してゆく構成。
良識人であろうとする吾郎に比べ、広末が狂人化するんだけど、
マジな「おかしい人」であった。
空気に向かって「ふふ、加奈子(娘)は慌てん坊ね☆」とか話してる広末…。
食卓にも娘分の食事を用意する広末…。
すかさず「そういうことはやめよう、加奈子はもういないんだ」と説く吾郎。
「貴方には見えないのね。貴方より私の方が加奈子のこと知っているからね。」と貫く広末。
「いるならそのオムライス減ってるはずだろ!!いないんだよ!!」とマジレスする吾郎・・・!
完全に漫才な
名シーンだった。

「そこにいるらしい」娘と対話する時の広末は空気を撫でたりしてる、いわゆるパントマイムなんだけど…。
そのパントマイムに犬が反応していた。犬にも伝わる広末の名演・・・!


福田麻由子ちゃんが志田未来よろしく14才の母やっていたんだけど、これがまたキツい。
Q10』の時も思ったけど、「いい子役」ではなく「いい女優」になりましたね。
安定した上で微細な表現を魅せた稲垣吾郎、狂気を孕む悲嘆を謎のバランス感覚でやりきった広末涼子、そして福田麻由子のファンは必見。
特に広末なー。生涯のうちで広末のストレートな演技で泣かされることがあるなんて予想もしなかったな。
「街で目を合わせてはいけない人」にも人生はあるし、悲しみや苦慮がある、という当たり前のことがわかる。これ『プレイブック』の時も言ったけど…。

【ネタバレ感想】
 奇跡は一回でいい。と思う。「あの子どもが生まれ変わりだった」までは、ファンタジーだろうと現実的にありえなかろうと、感動するんだけど、最後の最後はな。電話の主は娘だった...ってやつ。あの2度目の奇跡で『世にも奇妙な物語』デラックス版になってしまった気がする。
新宿ピカデリーにて鑑賞)