奇跡のリンゴ★★〜田舎vsアスペルガー〜


「感動☆映画」かと思ったらアスペルガー症候群の話だった。
 「何故田舎は異質なものをハブくのか」。その理由は、大体の田舎が「農業」をしているからだと思う。農業は天候だけでなく人間関係にも左右させる生業。物流に人間関係が影響してくる。だから、異質でしかない「無農薬リンゴ栽培」なんて嫌がられるに決まっている。無農薬栽培で害虫が大量に生じ、ご近所の畑に害が及ぶかもしれないから…。


 まずリンゴの知識がつく映画。リンゴは元々は甘くない果物だったらしい。それを長い間人間が改良してきて、今の状態になった。
 リンゴが日本に来たのは約100年前。結構歴史が浅い。初輸入当時は日本全国でリンゴが栽培されたそうだけど、害虫にいたく弱い為みな投げ出し、青森くらいしか育てなくなったとか。この我慢強い県民性が形容され「津軽魂」という言葉が使われる。人間が改良を繰り返したが為に農薬で害虫駆除をしなければ実を作れなくなったリンゴの木。皮肉にも知恵の実よろしく「禁断の果実」。そんなリンゴを無農薬で作ろうと決心したのが本作の主人公。農薬によって身体を壊す妻の為に、薬を使わなくても良いリンゴを作ろうとした…ってなんとも家族愛な話。
 津軽の話なんで登場人物は津軽弁を話すんだけど、ナレーターを務める菅野美穂の方言がおかしすぎて笑った。でも菅野さんは標準語すら変なので、あれでいいのかもしれない…。


 広告通り無農薬林檎を完成させるまでに10年もかかったわけだけど、その10年間で収入は無くなり電気も点かない極貧生活を送るわ、近所から村八分にされるわで大変過酷な状況。子どもたちも学校でイジめられていたっぽい。「普通」ならば、家族の為に「夢」を諦める環境で、何故主人公はそんなにも「無農薬林檎」に固執したのか。それは主人公がアスペルガー症候群だからである…と作品でほぼ言っちゃってる気がする。
 「高齢者向けサービス?」と思わんばかりの漫才級のギャグシーン、過剰な叫び芝居、多すぎる独り言も「主人公はアスペルガー症候群」と想定すると納得する。それ故に家族まで巻き込んだ「無農薬林檎栽培」に没頭し、10年間も極貧生活を送ることとなる。苦労の描写が結構ヘビーで、予告にある通り主人公は心を壊してしまう。実話だけあり「夢を追いかけること」の憂苦がよくわかる作品だ。
 その鬱病者の重さに反して「文句ひとつ言わず夫を支え続ける理解ある妻」が非現実的すぎたり、落とし方がTV局映画的だったりで、結局は「泣いたけど1週間したら忘れる映画」になっている。むしろなんで阿部サダヲが鬱になる一連のシーンだけあんま重かったんだろう?笑

【ネタバレ感想】
 阿部サダヲアスペルガー症候群統合失調症・自殺未遂までやらせるのならば、もうちょっと他でも現実味を持たせないとドラマ性が不成立ではないか。基本的には「みんないい人」なお伽話なのに、彼のシーンだけやに現実的で不釣合い。特に菅野美穂は文句一つ言わない「夫を理解し支え続ける良き妻」なわけだけど、家族丸々ご近所に差別され貧困に喘いでいるのだから、劇中一度くらいは夫に怒っていいはず。と言うか、あんな状況を課されて一度も激昂しないなんて、人間らしくなさすぎる。そのせいでドラマ性が酷く薄いと思う。阿部サダヲ以外も現実味を見せてくれないと「印象に残るドラマ」にはならない。よって「一週間したら忘れる」仕上がり。
 山崎努の扱い方にも疑問が残る。阿部サダヲに対し一度も苦言を催さず、黙って見守ったいい役なわけだけど。。なのに「死に方」はコメディのように軽い。黙って見守っていた理由は「ナス」と「いい目をした青年」だけなの?痴呆症になったシーンで笑いが起こっていたけど、笑うものでは無い気がした。
 あとやっぱり2時間20分は長い。青年期に時間を割いていたから「主人公の人生」自体を映画に収めようとしたのかもしれないけど、そうすると尻切れトンボ。農業をやりたくなかったから東京へ就職した、と長く描写する割には何故農業を始めたのかもよくわからない。それと無農薬に拘る理由について「自分がやめたら無農薬リンゴが世界から無くなってしまうから」と台詞で言わせたんだから、最後あのリンゴが世界・世間に認められたことくらいは出して良かったのでは?実際認められてるわけだし。「うちのリンゴを愛してくれるファンが出来た」ってミクロ的・人情的な結論だけだと「世界から〜」という台詞が活きないような。

(一ツ橋ホールにて鑑賞)