劇団四季『鹿鳴館』2013.6.12夜★★★☆〜日本最高峰舞台が魅せる三島由紀夫〜


 歌って踊る三島由紀夫かと思ったら歌って踊ってはいなかった。 劇団四季=ミュージカルってわけじゃないんですね…!しかし流石四季。『鹿鳴館』初体験にはぴったりの高品質舞台だった。劇自体はかなりの皮肉劇。これほど書き手がどのキャラ/人物にも肩入れしてない作品は珍しいんじゃないか笑。


  舞台って、始まって5分くらい「なんでこの人たちこんな喋り方してんの(笑)ウケる(笑)」と思ってしまうんですが、…慣れなくて笑…、今回それが無かった。舞台美術の圧倒的な美しさによって!!さすが四季さん!!完璧な絵画のような美しさの日本庭園。幕が開いたその瞬間、『鹿鳴館』の世界観に引きずり込まれた。
 明治貴族の言葉遣いも四季特有の母音際立つ発音でわかりやすく頭に入る。これぞモノマネしたくなる時代劇。そんな俳優たちの調べによって、心に深く入る言葉が多かった。

 「孤独な人こそ美しい景色を見る権利がある」
 「悪口は、僕にとっての褒め言葉なんです」

 なんて美しい言葉と価値観! 由紀夫は本脚本を舞台の為に執筆したらしく、なるたけ我欲を抑えたらしい。その割には三島的価値観もりだくさんだったけど…笑。例えば凄く「男」と「女」観が出てくる。男は論理的で大義を通すべき生き物/女は大義よりも隣人の延命そして愛を望む生き物…。なんちゃら。これに当てはめると三島本人は女性的だと思う。「男」らしくあろうとし、凄い行動&自決に出てしまった「女性的」な人物・三島由紀夫…。


 ストーリーは明治時代、白人文化に追いつこうと日本人が必死だった頃…。文明開化を率先する政治家の妻が、クーデターを起こす男たちと(ある頼みによって)接触を持つことから始まるメロドラマ。コロコロ「話の地盤」が変わる前半が楽しかった!これ、予習無しで見た方が面白いんじゃないかなー。
 演技では、まず主役の野村玲子の説得力!それはもう舞台に降りた瞬間に肌で感じられるんですよ。悪口大好きなご夫人達の間でも信頼を置かれるけれど、絶対異質な人生経験を積んでる=裏がある……って感じの。「今まで舞踏会に出なかったあたいだけど…今夜の主役になってやるわよ…!女を売ることにかけて、お上品な夫人様がたがあたいに勝てるはずない!!」ってシーンは痺れる!
 そして一番良かったのが平幹二朗演じる大臣・影山。この人も出た瞬間に「勝てるわけがない悪の存在」オーラがビンビン!たった一人の男の中で渦巻く、権力と仮面と時代、悲哀…。ま、2回ほど音声カンペが聞こえたんだけどさ! (平さんが台詞を忘れたらしく、彼の台詞を知らせる女性の声が聞こえた…レアな体験である。)


 『鹿鳴館』初体験として凄く楽しめたんだけど、後味は悪い。
【ネタバレ感想】
 ラストは夫婦のダンスを見せた方が良くない?どの道サイアクな後味なのだから、カッコよくあの二人が踊り切ることで(その爽快感から)作品全体がしまるような…。「嘘が巧くなりすぎてしまった影山と朝子がお似合いであること」が、息ピッタリのダンスで立証されてしまう、そんな物悲しさも出るし。舞踏室でのダンスを映像で見せる演出は面白かった。

自由劇場 1階 11列 11番にて鑑賞 ホール自体が小さいので舞台が近く、十分堪能できます)