悪の法則★★★★〜神話的アメリカ思想〜


 ブランジェリーナ&ペネロペハビエル夫妻っていう、ハリウッドゴールデンカップルが集うはずの映画だったのに、恋人たちが全くお似合いじゃない…。。キャスティングを見ても配置がバラバラなので、恐らわざと。恋愛要素が重大な筋なのに「この2人には幸せになってほしい」と願える組が存在しない。堕ちていってもまぁ納得、と思わざるえない人たちが堕ち続ける映画。


 本作が「神話的」と呼ばれる所以は、主人公の「為す術の無さ」であろう。ギリシャ神話において、神は絶対である。人間たちは神の気まぐれや怒りによって命運が決定してしまう。人は、ただただ「神による褒美と罰」を「受ける」しか無いのだ。慌てふためいた頃には、神の鉄槌は降ろされ始めたあと。
 しかしながら『悪の法則』の人々は、ギリシャ神話と決定的に異なる。何故ならば“罪を自分で選んだから”。スタート地点は「神のきまぐれ」ではない。「個人による個人欲求のための個人的選択」こそが物語の起点なのだ。この点が非常にアメリカ的思想。英語版キャッチコピーも「SIN IS A CHOISE」。マイケル・ファスベンダーハビエル・バルデムブラッド・ピットキャメロン・ディアス…この3者全て「個人的に」「選択をしている」。いつ地獄に落とされても不思議じゃない人生を。
 普通の映画ならば「その選択に至るまで」…つまりは一人の弁護士が麻薬カルテルに手を染めた理由の描写に尺をあてそうなものだが、本作は「選択をした後の物語」となっている。死と隣接するアンダーグラウンド・ビジネスに素人が手を染めたあとは、ただただ転落をするのみ。罰ってよりも自然の摂理みたいな不幸が主人公へ襲いかかる。地獄みたいな脚本。だけど、キャメロン・ディアスが冒頭で述べるように、真実に温度は無いのだ。熱気も冷寒も無い世界で流るる涙が美しい。
 最も皮肉なのは、主人公はフィアンセの為に上等なダイヤモンドを購入し、そのあと麻薬ビジネスに着手したと言うのに、当の婚約者は指輪の階級など気にも留めていなかったことだ。

【ネタバレ感想】

 婚約者を喜ばせたい主人公は、ブラピより善人に見えるが、そもそも「自分だけ助かりたい」も「愛する人を助けたい」も同じ"欲望"ですよねー、、ってCOOLさ。各キャラへの印象をまとめてみた。括弧内は作品が明示する二番名。

1.ハビエル(THE KINGPIN:ボウリングのピン)
 小心者。恐怖に襲われた時の反応は「見てみぬフリ」。裏社会で財と危険性を得れば得るほど、生活を豪勢にしてゆく…ってところから臆病者だ。カーセックスを前に呆然とするしか無かった時点で、キャメロンに捕食されている。目立っているから、まるで「倒されるボウリングのピン」みたいに死ぬ。
2.ブラピ(THE COWBOY:アメリカの象徴)
 独善主義。一匹狼を自称し、宣言通り一人で逃げる。その割に出先のギャルをナンパしPCのロックコードを流出させる、バカな性欲旺盛おじさん。一番欲望って言葉イメージに相応しいキャラなので「自らの欲望が自らを殺害する」絵面みたいな死に方。「自らの投げ縄によって首を絞められるカウボーイ」。
3.ペネロペ(THE FIANCEE:婚約者)
 盲目。完全なる被害者に見えるし、実際可哀想なんだけども…。プールサイドでキリスト教倫理から外れた「罪」を告白するキャメロンは助かり「罪」を告白しないペネロペは作中最も悲惨な最後を遂げる。冒頭プレイを見る限り、婚約者が初めての相手だったわけじゃなかろう=一度くらいは倫理から外れた性体験をしてるはずなのに、プライドが高いのか潔癖な態度をとり続けていた。本来はアン・ハサウェイが似合いそうな役。
4.ファスベン(THE COUNSELOR:弁護士)
 共犯者。「愛する人の為に指輪を買う」行動は美しいが、その中で「高い階級に目が眩む」俗物的思考。ランチ中、チンピラに絡まれたシーンを見ても、彼が「美しきカウンセラー」であった可能性はゼロに等しい。麻薬カルテルに足を突っ込んだのに、自分がハビエルやブラピと同族という認識=共犯意識も薄そう。あのあと彼は、DVDを見て「共犯者」となるのであろう。
5.キャメロン(THE BLACK WIDOW:交尾後に配偶者を捕食する蜘蛛/健康な人間には害はほぼ無い毒を持つ)
 狩人。彼女が1人だけ「他の人間を超越した魔物」ならばまだ落ち着ける。だけれど、彼女は結局、投資銀行と組んでたのだ。非常に現代的なmoney hunter。性欲の行き先が狩りだ、っていうマイノリティな人物。それだけ。他の四人と同じ普通の人間である。そのうち、ペネロペみたいにゴミ処理場に投棄されそう。投機だけに。

 要するに、5人とも全員ただの人間なのだ。この映画にしても、欲望と貧富が存在する世界で起こった超・一部始終って印象。人類が欲望を断たぬ限り、この世は地獄で在り続けるんだろう。

(TOHOシネマズ六本木ヒルズにて鑑賞)